●49-05:アイビー事件
<04/06/03>
●アイビールック
今では確実にただのおじさんに近づいている私ですが、はじめてファッションなるものに気を使うようになったのは中学の頃でした。
時代は冬季札幌オリンピックも終わって数年後、昭和50年前後でしょうか。
当時はVANが世の中の洒落者たちの注目を集めており、その中でも流行っていたのが「アイビールック」なるものです。
今ではそんな格好をしている人はほとんどいなくなりましたので簡単に紹介しますと、元々はアメリカ東部の8大学のアイビー・リーグから来ており、元VANの創設者、石津謙介氏がアメリカの大学生のファッションをベースに「アイビールック」として流行させたそうです。
当時は、ボタンダウンにレジメンタルのネクタイ、紺のブレザー、細いストレートパンツにアイビーソックス、髪型は短く前髪だけ上向き・・・なんてのが街中をウロウロしていました。

●転校生来たる
中学に入ったばかりの私がそんなアイビールックなんぞ知るわけがなく、ファッションという概念すら持っていなかったと思われます。
しかしそれは私だけではなく、周りにいる人がみーんなそうでした。
ひょっとして函館の大人たちの中には、早くもそんな格好をしていた人もいたのかもしれませんが、もちろん私はそんなことにも気がつきませんでした。
ある日、私の中学校に一人の転校生がやってきました。
私の通う中学は住宅地の中にあり、当時の国鉄官舎などがあったこともあり、ごくごく普通の一般的な家庭が多く、いわゆる親子揃って真面目な住民ばかりだったと思われます。
そこへやってきた転校生は男子でしたが、私たちはひと目見るなり私たちと違う雰囲気を持っていることに気がつきました。
髪型は少々長目ではありましたが、前髪は天井を向いていましたし、ズボンも足首に向かって細くなっています。
そして彼の持っているカバンは、中に何も入らないほど薄かったのです。
私たちのカバンは、当時、ズック(厚手の綿の布)で作られた肩掛けカバンでした。
今思えばバカバカしいですが、その肩掛けカバンをたすき掛けにするか、そのまま肩から下げるかで学校中で大論争になったりしていました。
彼がやってきて数日後、誰かが「あの人の格好は『アイビー』というものらしい」と聞いてきたらしく、その日から彼のあだ名は「アイビー」になりました。
アイビーは、田舎の真面目少年の私たちとは明らかに違い、危険な香りさえ漂わせていましたので、一部の女生徒達から熱い視線を集めるようにもなりました。
●殴り込み
中学2年になった私たちとアイビーが仲良くなり始めた頃、学校を騒がすほどの噂が流れました。
『隣町の中学の生徒が殴り込みにくるらしい』
校内はその噂でたちまち持ち切りになりました。
何せ「殴り込み」です。
ヤクザ映画だって満足に見たことがない私たちです。
「殴り込み」とは一体どんなものなのか想像すらできません。
ただそれは『怖いもの』である・・・それだけは確実に感じ取っていました。
緊張する中、とうとうXデーはやってきました。
放課後、まだ生徒が残っている中、「今、学校に向かっている」という情報が・・・。
もう私たちはパニックです。
みんな教室に入り、窓から外を見張るもの、教室の戸を少しだけあけて廊下を覗くもの、みんなの頭の中は「一体どんなヤツら来るんだろう」という思いではちきれんばかりで、まるで日光猿軍団にチンパンジーがやってきたような状態でした。
そんな緊張がはじけそうになった頃、廊下を覗いていた一人が叫びました。
「あ、来た!」
その声を聞いてみんな、ドォーっ!とその戸めがけてなだれ込みました。
そしてその細く開いた戸の隙間から覗いたのです。
います、いました!
学生服をややだらしなく来たヤツらが3人、こちらに向かって歩いてきます。
先が細くやや短めの学生ズボンから、白く2本の横線が入った靴下が見えました。
それを見た誰かが言いました。
「あ、靴下、アイビーだ!」
意外なことに全員の視線は、その横線入り靴下に釘付けになりました。
そしてみんな呪文をとなえるようにつぶやきだしたのです。
「アイビーだ」「アイビーだ」「アイビーだ」・・・。
翌週から、私の中学ではアイビーソックスが大流行しました。
「殴り込み」に来た彼等ですが、友達に会って用を済ますとサッサと帰っていきました。
・・・end


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