以前、八方園というお店のかた焼きそばを紹介しました。私は東京でかた焼きそばというものと出会って以来のかた焼きそばファンだったのですが、何故か函館にはほとんどみかけることのないメニューでした。そんな中でみつけた八方園のかた焼きそばは、若干私のイメージしているものとは違うのですが、函館でそれ以上のものをみつけることの出来なかった私にとっては最高のものでした。
ところがあったのです。
私にドンピシャリのかた焼きそばが。
それは函館の山の手という住宅街にある、「街の中華屋さん」という雰囲気のお店で、地元の人しか、いや近所の人しか行かないかもしれないお店です。
実は私の自宅はこの店までそう遠くありませんし、お店の前を何度も車で通ったことがあります。しかし車を停めて中に入るということはありませんでした。それほど普通の佇まいなのです。
ここのかた焼きそばも八方園と同様、メニューにはありません。事前に「メニューには載っていないが、注文すれば作ってくれるよ」との情報を元に、おそるおそるご主人に「かた焼きそばってできますか?」と聞いてみました。
「できますよ。」との答えに胸を撫で下ろし、出来上がりを待つことに。
出てきたのはしょう油味のかた焼きそば。私のイメージは塩味でしたが、まずは食べてみることに。
コレです!コレだったのです!
おそらく塩味であれば直球ど真ん中に間違いない。
早速、数日後に来店して塩味を注文。麺の揚げ具合も好みを聞いてくれるとのことでしたので、前回のものよりもやや固めにお願いしました。
私の予想は間違っていませんでした。
今まで私が食べてきたかた焼きそばの中で、間違いなくトップでしょう。
もうこれ以上のメニューは必要ない。(ちょっと大袈裟)
函館ではかた焼きそばを注文する人はほとんどいませんので、麺のストックはありません。毎回揚げてくれます。
具となる野菜や肉はしっかり油通しして、時間をかけて作ったであろうスープと合わせてアンを作ります。
しかもお値段600円。
こちらのお店のご主人は、以前、五稜郭にある丸井デパートの地下にあった真マメさんというラーメン屋さん出身。いわゆる今の函館の塩ラーメンの源流の人です。
塩ラーメンももちろん素晴らしい。
私は塩をちょっと抑え目、麺を固めでお願いします。
確かにどのメニューも美味しいんですが、私はかた焼きそばしか注文しません。もうそれしかあそこでは頼めないんです。これを読んでいる方が「そんなにかた焼きそばとは旨いものなのか?」と思って食べてみることは薦めません。いいんです、私だけ旨いと思えれば。
最後に、私のかた焼きそば好きが縁で、初めてかた焼きそばを食べるハメになった知人の感想をご紹介します。

(遠藤)


※このお店の話はおやつはCALS:51-09でも紹介しています。
■ああ、かた焼きそばに悔いなし
生涯初のかた焼きそば、ある意味それを注文することは賭けであり、食すことは冒険です。先日、初めて遭遇したそれは未知の食物Xでした。
熱い、固い、熱い、固い。咀嚼→嚥下という行為そのものが困難なんです。もうダメかと思いましたねえ最初は。
ところが不思議なことに、食べ進むにつれ、これはこれでいいんだと思い始め、最後には、また食べたいと思ったのには自分でも驚きました。
食感がどんどん変化していくんですね。
最初は頑固者の麺太と地味地味なアン子が出会う早々アツアツの大げんか状態で登場です。
こちとら仲裁に入ったご隠居さんみたいなもんです。それが、いつの間にやら仲直りと思ったら・・・
いつのまにやらしっとりと、からまるアン子に、ほどよくほぐれこれから二人寄り添って、歩いていこか夫婦道(めおとみち)ああ、かた焼きそばに幸あれ。
そしてさらに食べ進むと
「しかし、一口ごとに深まる麺とアンの一体感はもはや円熟の境地であり、ついにスープとなった残り少ないアンに沈む柔らかな麺の最後の一片を口にしたとき、限りない至福の絶頂の中、波乱に満ちたかた焼きそばの生涯は静かに幕を閉じるのであった。振り返れば満ち足りた一皿だった。ああ、かた焼きそばに悔いなし。」
(「我が生涯のかた焼きそば」より)
■心に残る食事
まるで魔法にかけられたようです。
不思議の国の有栖オヤヂ。引き合いに出された本家アリは迷惑でしょうが。
たぶんツルツルピカピカの中華鍋を見た時に迷い込んでいたんでしょう。
よく見ると、ごくごくフツーの具材もキチンと油通しされていて、アンの中ではしっかり晴れ姿です。
なんの変哲もない野菜や肉が、ツルピカナベの魔法でシンデレラって感じじゃないですか。
ああ料理ってのはこうじゃなくちゃ!
いい店というか空間です。
暑い日の夕方、銭湯帰りにぶらりと立ち寄って、小上がりでビールと唐揚げってのも最高に似合いそうです。
扇風機が回っていて、窓やドアが開けっ放しで・・・夏はいいなあ・・・秋だけど。
寡黙なご主人と、ほどよく朗らかな奥さんに、黙々と食事をする常連客たち。
ラッシュでも閑古鳥でもない丁度よいにぎわいと静寂。
記憶の中の中華食堂そのままが、ビミョーなバランスで常世に現れた一瞬、とでも言うんでしょうかね。
出来ればずっとそこに居たいというか、昔からそこに居たというか、そういえば昔はこんな風だったかなって。
それで、食べ終える頃にはとても満足してたりして。
昔ながらに手書きの品書きがずらりと並んだメニューをみて、レバニラ炒め定食もいいかな、来週来たら食べてみようかなとか、おあいそしながら思ったり。
夢のようとしか言いようがないなぁ。
この世に生まれて初めての食事ってのは美味いとか美味くないとか以前に誰も憶えちゃいません。
でも、その記憶は心の一番深いところに今も根を張ってるんでしょうね、幸せな食事の記憶として。
美味しいものに出会って心に残るんじゃなく、心に残るから美味しいんでしょうきっと。
香華園はそんなお店です。
ご主人の奥さん、シャッキリ朗らかな対応、出来たての野菜炒めのようにナイスです。
オヤヂギャグを飛ばす間もなく黙々とナベを振るうご主人、唐揚げを見つめる背中がステキです。
次回はぜひしょう油アンでいただきたいと思います。
もちろんかた焼きそばを!
by
hal